33 はしる




学生の頃、運動が不得意でした。

体は小さかったし、低血圧だったし、筋力もなかった。
スポーツで級友に秀でるものは、何一つありませんでした。

でも、走るのは好きでした。

瞬発力がないので、短距離はてんでダメでしたが、
長距離では、クラスでも上位グループでした。

走り続けていると、のどに血の味が染みてくるのです。
走り方を知らないので、
無茶な走り方をしていたかも知れません。
しかし、のどに血の味がするようになると、体の疲れを感じなくなるのです。

それは、多分、他の人が疲れを感じ始めて、スピードが落ちてくる時分なのでしょう。
私としてはスピードを上げているつもりはないのに、
どんどん順位が上がっていくのです。

足は勝手に順序よく交代に動き、
腕もより一層高く振り子運動を続けるようになります。

意識は遠くにあって、
疲れを感じるはずの体の中は、既にからっぽです。

ただ、ただ、のどの「血の味」を、分析するように慎重に味わっているだけ。

あぁ、フルマラソンだって、走っていられる。

そんな、幸せな勝利感が私を包みます。

体育の授業で走るのは高々3キロ。
5キロだって走れやしないに決まっているのに、
永遠に走れそうな自信と
ちっとも疲れない自分への満足感に酔いしれるのです。

あぁ、人生ってのも、こんなもんだ。

人生の走り方なんて、知らない方が幸せなんだ。






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