|
高校の時の同級生がテレビに出ていた。
なんだかっていう、小難しい肩書きをつけて。
なんだかっていう研究をしているそうだ。
そういえば、最初に本を出したときに、メールをくれた。
祝福のメールを送ったら、返事が来たので、懐かしい話など書いて、また返信した。
そしたら、もう、それから返信は来なかった。
僕は、なんだ。本の宣伝だったのか。
と、がっかりした。
それから、結婚して外国にいる、という、写真付きのハガキが来たけど、
もう、返事も書かなかった。
へぇ。あれから、本も5冊以上出してるんだ。
僕は、例の、イライラに襲われた。
今日は、薬なしで乗り切るんだ!
僕は頭を抱えて、ううっと、うめいた。
あの薬を飲むと、眠れなくなるから。
このイライラは、なんだ?!
ずっと、分からなかった。
僕の高校時代の友達には、医者がいる。
研究者やってるヤツもいる。
大学の助教授になったヤツもいる。
アーティストになったヤツもいる。
自分の店を持ったヤツも。
会社を持ったヤツも。
僕は、なんだ?!
会社は一流企業だ。
美人の妻に、有名進学校に通う息子。
都心の一等地にマンションも買った。
なのに、みんなと同じ時間生きてきて、
僕だけ、成し遂げた物が何一つないような気分だ。
自分は、なんだ?!
僕は、例の、イライラに襲われる。
あぁ、あの薬は飲みたくないんだ。
薬が切れると、頭が痛くなるんだ。
僕は、このイライラに襲われたとき、
いつも何かに没頭して、この嫌な気分を忘れようとした。
やみくもに仕事した。
1日中泳いだ。
休みの日には映画館をはしごした。
それでないと、どんどん自分の中がからっぽになっていきそうで怖かった。
何かで、自分の中身を埋めていかないと、どんどん空虚になっていきそうで怖かった。
それでも、ちっとも満たされず、
イライラは治らなかった。
この白い錠剤を1粒飲めば、イライラはたった30分で治まって、
いつもの僕に戻れる。
でも、なんだか、自分から逃げているようで、
自分自身にバツが悪いんだ。
誰とも比べないでいいんだよ。
君は、君であるだけでいいんだ。
先生は、そう言った。
それは、僕にとってとっても意外な言葉だった。
僕は、いつも自分に自信がある。
なんだって器用にこなすし、のみこみも早い。
会社での評価も高い。
同期でも一番に部長になった。
「比べないでいいんだ」なんて、できないヤツにいうセリフだ。
僕は、比べて欲しいくらいだ。
比べてくれ。僕は優れているだろう?
僕のイライラは、劣等感から来るものだと思っているのか、先生?
今日は、勝負してやる。
これが劣等感でないことを証明してみせる。
何にも没頭したりして、このイライラを誤魔化したりなんかしない。
薬に逃げたりなんかもしない。
こいつの正体を、つかまえてやる。
そう思ってたとき、ラジオから歌が流れてきた。
自分を高く見せてがんばるのは
結局無理してつぶれてしまうよ
もっと気楽に思うままにやれば
結局すごく楽になるだろう
楽して楽してするりとくぐりぬけよう
楽して楽して自由を求めてやろうよ
体が軽くなるまで
とうとう、
僕は、あのイライラの正体をつかんだ。
そして、薬を捨てた。
|