20 なんだ?!




高校の時の同級生がテレビに出ていた。
なんだかっていう、小難しい肩書きをつけて。
なんだかっていう研究をしているそうだ。

そういえば、最初に本を出したときに、メールをくれた。
祝福のメールを送ったら、返事が来たので、懐かしい話など書いて、また返信した。
そしたら、もう、それから返信は来なかった。

僕は、なんだ。本の宣伝だったのか。
と、がっかりした。

それから、結婚して外国にいる、という、写真付きのハガキが来たけど、
もう、返事も書かなかった。

へぇ。あれから、本も5冊以上出してるんだ。



僕は、例の、イライラに襲われた。
今日は、薬なしで乗り切るんだ!
僕は頭を抱えて、ううっと、うめいた。

あの薬を飲むと、眠れなくなるから。



このイライラは、なんだ?!

ずっと、分からなかった。



僕の高校時代の友達には、医者がいる。
研究者やってるヤツもいる。
大学の助教授になったヤツもいる。
アーティストになったヤツもいる。
自分の店を持ったヤツも。
会社を持ったヤツも。

僕は、なんだ?!

会社は一流企業だ。
美人の妻に、有名進学校に通う息子。
都心の一等地にマンションも買った。

なのに、みんなと同じ時間生きてきて、
僕だけ、成し遂げた物が何一つないような気分だ。



自分は、なんだ?!



僕は、例の、イライラに襲われる。
あぁ、あの薬は飲みたくないんだ。
薬が切れると、頭が痛くなるんだ。



僕は、このイライラに襲われたとき、
いつも何かに没頭して、この嫌な気分を忘れようとした。
やみくもに仕事した。
1日中泳いだ。
休みの日には映画館をはしごした。

それでないと、どんどん自分の中がからっぽになっていきそうで怖かった。
何かで、自分の中身を埋めていかないと、どんどん空虚になっていきそうで怖かった。
それでも、ちっとも満たされず、
イライラは治らなかった。



この白い錠剤を1粒飲めば、イライラはたった30分で治まって、
いつもの僕に戻れる。
でも、なんだか、自分から逃げているようで、
自分自身にバツが悪いんだ。



誰とも比べないでいいんだよ。
君は、君であるだけでいいんだ。

先生は、そう言った。
それは、僕にとってとっても意外な言葉だった。
僕は、いつも自分に自信がある。
なんだって器用にこなすし、のみこみも早い。
会社での評価も高い。
同期でも一番に部長になった。
「比べないでいいんだ」なんて、できないヤツにいうセリフだ。
僕は、比べて欲しいくらいだ。
比べてくれ。僕は優れているだろう?

僕のイライラは、劣等感から来るものだと思っているのか、先生?



今日は、勝負してやる。
これが劣等感でないことを証明してみせる。
何にも没頭したりして、このイライラを誤魔化したりなんかしない。
薬に逃げたりなんかもしない。



こいつの正体を、つかまえてやる。



そう思ってたとき、ラジオから歌が流れてきた。



  自分を高く見せてがんばるのは
  結局無理してつぶれてしまうよ
  もっと気楽に思うままにやれば
  結局すごく楽になるだろう
  楽して楽してするりとくぐりぬけよう
  楽して楽して自由を求めてやろうよ
  体が軽くなるまで





とうとう、

僕は、あのイライラの正体をつかんだ。



そして、薬を捨てた。






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